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2024年問題以降の物流危機
第1回:2024年問題以降に待ち受ける具体的な物流課題とは?

日付: 2024-03-11
カテゴリー: ブログ

働き方改革法によって2024年4月から施行される「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」。これによって生まれるさまざまな課題が懸念されています。この物流・運送業界の「2024年問題」を乗り越えるためのヒントを、欧州を代表する経営戦略コンサルティングファームである株式会社ローランド・ベルガー の小野塚 征志さんに伺いました。
「物流危機によっておこるこれからの日本」と「物流自動化への投資基準」という観点でお伺いしたインタビューを、3回にわたってご紹介していきます。
1回目の今回は、2024年問題が物流業界に引き起こす「深刻な人材不足」と日本の危機についてです。


■小野塚さんプロフィール

profile
小野塚 征志
株式会社ローランド・ベルガー パートナー

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。
サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。
内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長、経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員、経済産業省「フィジカルインターネット実現会議」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員、経済同友会「先進技術による経営革新委員会 物流・生産分科会」ワーキンググループ委員などを歴任。
近著に、『ロジスティクス4.0 −物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)、『サプライウェブ −次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『DXビジネスモデル −80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)など。


2024年問題が引き起こす、物流業界の「深刻な人材不足」

Q.小野塚さんが2019年に上梓された著書『ロジスティクス4.0:物流の創造的革新 』(日本経済新聞出版)で語った物流業界の未来は、今まさに現実のものになろうとしています。あらためて2024年問題以降に顕在化してくる「物流の課題」とは、具体的にはどのようなものなのかを教えてください。

小野塚 物流の「2024年問題」は人手不足から始まる物流危機」といってもよいでしょう。
現在トラックドライバーの総数は、ざっくりと年率2%ずつ減少しています。しかし、世の中の物流量は微減傾向であるものの、トラックドライバーほどは減っておらず、需要と供給のギャップが大きくなっています。2024年4月以降は、ご存じの通り「働き方改革関連法」が完全施行され、労働時間がこれまでより短くなりますので、ドライバーの総労働時間はガクっと大きく減ることが予想されます。さらに2025年以降も人手不足の状態は止まらず、減り続けていきます。国の試算(NX総合研究所調査)によると、2024年4月時点で輸送能力が14%強不足し、2030年には30%以上不足するとみられています。(※参考資料)つまり輸送能力はむこう6年間で崩壊に近い減少が起きることで、日本経済全体にさまざまな悪影響を及ぼすことが懸念されているのです。
こうした「物流にかかわる人材が減り続ける」という課題に対して、国と企業は速やかに対策を講じなければならないというのが、現状認識となります。

物流の人手不足が引き起こすワーストシナリオは「日本の衰退」

Q.2024年問題の先に「人材不足」の状況がより深刻化することがよくわかりました。その結果起こり得るワーストシナリオはどのようなものが考えられるでしょうか? 現場レベルでの視点、さらに業界全体での視点、ふたつの見方でそれぞれ教えてください。

小野塚 倉庫や物流センター内の現場で起こりうる目下の問題としては、時給を上げないと人が集まらなくなり、その結果、物流センターのコスト競争力が低下する、ということが挙げられます。そしてその先にあるワーストシナリオは、「そもそも時給をあげても人が集まらない」という事態です。たとえば100人必要なところに50人しか集まらなければ、顧客に出荷したくても十分な量とスピードで出荷ができません。当然物流センターの売上は減ってしまいます。これが、現場レベルで考えられる最悪のシナリオです。

さらにマクロ視点で見ていきましょう。こうした現場が数多く出てくると、世の中全体の人件費がどんどん上がっていくことになります。特に労働依存度が高い業種であるほど、価格競争力がなくなっていくということになります。
もともと人がいなくてもモノづくりできる工場であれば、人件費が上がってもあまり影響を受けません。しかし、ほとんど人海戦術でやっているような物流センターほどコストが上がっていくことになります。こういった物流センターをたくさん抱えているような荷主は、売上高に占める物流費の割合が上昇していきます。ひいては、日本経済全体で物流費の割合が上昇していくことになります。
ちなみに日本ロジスティックシステム協会のレポートによると、売上高物流費率は、これまでは長い間5%くらいで推移していましたが、2年前に6%に上昇しました。たとえば営業利益率が5%の会社だったら、売上高物流費率が1%ポイント上がれば、営業利益率が4%になるということを表しています。現場の人件費が高騰するのはそれほど収益に直接インパクトがある出来事なのです。
直近では売上高物流費率は、また5%くらいまでに落ちています。しかしこれは決して物流費が下がったからではなく、売値に転嫁しているだけなのです。商品の価格を上げればそれだけ売上高物流費率は下がります。でもその行きつく先は世の中全体の「物価が上がる」ということです。世界中で同様の現象が起きるのだとすれば問題ないのですが、日本の商品だけ価格が上がるということは、世界で見たときに日本の商品が割高になり、国際競争力を失うことにつながっていきます。
また、海外へ日本の商品を売りたくても、先ほどお話しした国内の物流量そのものが減ってしまうことで、需要に応えるだけの十分な「輸出量」自体が不足するという事態が起きることも考えられます。
人気が出た商品を工場では増産できるけれど、運べる絶対量が足りない…。物流のせいで国内企業の売上が落ちてしまうかもしれません。
このように物流での人手不足が広がることで、最終的に日本の衰退に直結する…というのは、決して大げさな話ではない、物流クライシスが起こすワーストシナリオです。

次回は、2024年問題を乗り越えるための「自動化」への投資タイミングと、その判断基準について、引き続き小野塚さんに伺っていきます。

【この連載の記事】
2024年問題以降の物流危機 第2回:物流危機をチャンスに変える「自動化」投資と基準
2024年問題以降の物流危機 第3回:物流「自動化」のカギを握る各業界の未来

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