協働ロボット

「ロジスティクス4.0」×協働ロボット最前線第1回:ロジスティクス4.0の起源と最新事情

日付: 16 Aug 2021
カテゴリー: ブログ, 物流ロボット最新トレンド

物流ロボットの導入を検討する際に必要な、未来の予測や今起こりつつある変化については、先日「ロジスティクス4.0」というキーワードをテーマでご紹介しました。

・第6回 もはや自動化&ロボット化は必然の流れに!物流の新たな世界「ロジスティクス4.0」を読み解く

その際にご紹介した書籍「ロジスティクス4.0 -物流の創造的革新」(日経文庫)の著者であり、ロジスティクスやサプライチェーン分野の知見が深い小野塚 征志さんに、変わりゆく物流ロボットを取り巻く世界についてお話を伺う機会を得ました。そこで、書籍には載っていなかった情報や、最新の物流業界の変化をテーマに、今回より数回に渡ってインタビュートークをご紹介したいと思います。
小野塚さんはドイツを本拠とする、欧州最大の経営戦略コンサルティング会社「ローランド・ベルガー」のパートナーです。物流ロボットの導入に関する疑問や情報について、コンサル目線でロジカルに解説してくれました。
第1回目となる今回は、ロジスティクス4.0のそもそもの起源と、書籍で語っていた当時から2年半後の世界に、何がどう実現しているのかを、未来予想図の答え合わせのように語っていただきました。

事業効率化の入口は「物流のコストカット」に隠されている

Q. 小野塚さん自身のキャリアについて少しご紹介ください。また経歴の中で、特にロジスティクス分野の知見を深めたご経験などを教えてください

小野塚 私自身は、2007年にローランド・ベルガーに入社しました。当社は経営戦略のご支援をさせていただく会社なので、自動車メーカー、機械メーカー、小売、ヘルスケア、商社、金融機関、ファンドにもクライアント企業がいて、経営にかかわること全般、中期経営計画の策定、M&A戦略の策定、マーケテイングの支援などを行っています。
私はその中でも物流やサプライチェーンの分野を担当しています。

戦略コンサルにいると、その年に起こった出来事に対応するため、各企業が戦略を変えていくことを俯瞰して見ることができます。例えばリーマンショックの時には、人員削減、工場閉鎖など、コスト削減に関わる構造改革の相談が1~2年続きました。コロナ禍では、事業の分離・分割や、M&Aに関わる相談が多かったです。
その中で興味深いのが、例えば3直2交代制だったのを2直2交代制にして、設備も一部閉鎖して、コストを抜本的に削減しています…など、コスト削減をギリギリまでやっているのに、なぜか「物流コストを下げられていない」ということが多かったんです。
メーカーの場合、生産コストが多くの部分を占めるので、通常は調達費をまずきっちりチェックしていきます。そして、人件費、生産設備、減価償却を順に見ていく。
その他を見ていくと、通信費や旅費交通費はだいたい売上の1~2%なので、頑張って削ってもたかがしれています。そこで目が行くのが5~6%を占める物流費。5~6%のうち2割下げれば、営業利益が1%増えるわけです。コストの大部分を占める調達費は、徹底的にチェックしているので、コンサルで入っても削減余地は限られる。それより、物流コストを削減するほうが、はるかに効果が大きい、というケースがこれまでたくさんありました。なので、私はどうやれば物流コストをより大きく削減できるか、クライアント企業の構造改革を推進するたびにノウハウを蓄積し、次々と実行にうつして行きました。

どんな会社もそうですが、実は物流のような「本業じゃないところ」にコスト削減や効率化の入口があるものです。日本全体としてこの入口を見逃しているなら、大きな損失です。たとえば、「積載率が低く配送効率が悪い」ということは、ムダにCO2を排出していて環境にも良くない…とつながっていきます。物流をテーマにいろいろな改革をすることは、日本にとってもとても良いことだし、なおかつ手を付けられていないから、ポテンシャルが大きいなと考えています。

ドイツ政府の戦略が由来の「ロジスティクス4.0」

Q. 物流のコストカットに、それだけのポテンシャルがあるとは、目からウロコです。さて、このロジスティクス4.0(以下、ロジ4.0)の考え方は、どのようにして生まれたのでしょうか?

小野塚 もともと「4.0」というキーワードは、製造業のコンピュータ化を促進した、ドイツ連邦政府のハイテク戦略プロジェクトに由来した「インダストリー4.0」が元ネタです。弊社の本国はドイツですが、名誉会長のローランド・ベルガー氏が、メルケル首相の顧問で、このプロジェクトに参加している中で、インダストリー(ドイツ語ではインダストリエ)4.0という用語が生まれました。
このインダストリー4.0において、重要なターゲットのひとつと言われていたのが、「マス・カスタマイゼーションの実現」でした。これは、いろいろなものがフレキシブルにつくれて、多品種少量生産でいろんな場所で使えるようにしていきましょう、というものです。旧来型の大量生産とはまったく違ったモノづくりの文化がやってきますという内容だったのですが、ここで必要になるのが、ビッグデータ、AI、センサリングに加えて、「ロジスティクス」を1段上のレベルに格上げしないといけないですということで、インダストリー4.0の中で明確に「ロジスティクス4.0」と書かれました。言葉の起源としてはここがスタートです。
ただ、インダストリー4.0は製造業の革新をテーマとしていたので、言葉として記載はあったのですが、「ロジスティクス4.0」の明確な定義はなかったのです。それを2015年に改めて定義し、セミナーなどでお話したり、専門誌に寄稿していたりしたのですが、2018年にこれを書籍にしませんか?と日経からオファーがあったという形ですね。

書籍で書かれた近未来予想図「2年半後の答え合わせ」

Q. ロジスティクス4.0の中で書かれている、物流倉庫におけるロボット化ですが、書籍を上梓された2019年当時と現在での違い、最新の見解についてお聞かせください。
(例:棚搬送型ロボット→協調型ロボットへのニーズのシフト…、など)

小野塚 2019年当時、物流ロボットといえばGTP(Goods To Person)が主流でAMR(Autonomous Mobile Robot)が少しずつ出始めていたくらいでしたが、広まるにはハードルがある状況でした。どちらかというと、ZMPのキャリロ(https://www.zmp.co.jp/carriro)のように人間を自動追従するか、パワースーツのように人間を補助するほうが、投資しやすくコスパがでやすいという状況でしたね。

また、ロボットに適応できる物流センターとなると、条件的に少なくなるという認識もありました。とはいえ、「いつかブレイクするときがくるだろう」とそのタイミングを見ていましたが、この1~2年で急激に時間が進みました。今や、安いけど労働生産性の向上が思ったほどなかった自動追従ロボットを選ぶ企業は少なくなりました。変わって台頭しているのが、センターの環境ごと投資して一気に自動化するGTPか、導入実績が増え性能もあがり投資がしやすいAMRの2択に絞られました。
特にAMRはオペレーションが確立されてきており、見極めやすくなりました。さらにいまは、投資対効果が得やすくなっています。書籍を書いた当時は「2025年までには普及しやすい土壌ができるだろう」と思っていたのですが、2021年のいま、ある領域においては、一気に普及が進んでもおかしくない状況になっているな、と思いますね。

AMRのポテンシャルが変える物流倉庫の効率化

Q. 日本の倉庫では、中国の大倉庫などに比べると規模が小さな倉庫に多品種の商品がストックされるなど、独特なロケーション事情があります。こういった部分にラピュタロボティクスが対応し始めています。これが今後、世界の倉庫&物流にどのような影響を及ぼすか、ご見解をお聞かせください。

小野塚 まず大前提として、そもそもGTPとAMRが活躍する領域は異なります。
GTPは新築の倉庫で、作業者の人数が少ない中、一から構築しなければならないケースに向きます。中国やインドの大規模倉庫はGTPにフィットしやすい。逆に先進国や、マテハン機器などのレガシー(=既存マテハンやスタッフ)があるところはAMRが向く…などは一般的によく言われていることですね。それに加えて2つポイントがあるとすれば、GTPの場合は「ロボットはロボット、人は人」。GTPは、人がどんなに頑張っても、ロボットの生産性があがらないし、ロボットがどんなに頑張っても、人の生産性があがらない。だから、GTPには進化に限界があると言えます。

ところがAMRは、ロボットと人が協働し、融合することで効率や生産性の限界を突破できるポテンシャルが多分にあります。たとえば指示の仕方をもっと高度化するために、音声認識やイヤホンで指令が出せるとか、スマートグラスで相互にコミュニケーションができるようにするとか、効率化をもっと突き詰められる可能性を十二分に持っているのです。


いずれは「すべての物流センターが自動ロボット化」する日がくるかもしれません。ただ、今から10年ではそれは無理で、やはり20年はかかるでしょう。であれば、現状の設備やスタッフをロボットと融合させていくAMRのほうが、現状から無理なく効率を追求できるのです。レガシーがある国ではAMR、そうでない新興国はGTPがいいと言われる理由がここにあります。

またAMR自体が持つもうひとつのポテンシャルは、物流センター以外の部分で活躍できることです。GTPはあくまで物流倉庫の中だけに特化して、棚ごと持ってきてくれるだけで、飲食店のサービスロボットとして使う要素はないですよね。
AMRは飲食店、ホテル、宅配センター、何なら公道など、どこでも使えるポテンシャルがあるから、用途が違っていてもそれぞれの利用先ごとに開発・運用の知見を蓄積でき、それを共有することで、技術を日進月歩で進化させられます。特殊な領域限定で使うGTPとは、この点は比べ物になりません。特に細かな希望要求が多い日本の物流現場で鍛えられたAMRは、そのノウハウごと標準化して海外に持っていければ、すごく可能性があると思っています。


【この連載の記事】
・「ロジスティクス4.0」×協働ロボット最前線 第1回:ロジスティクス4.0の起源と最新事情
・「ロジスティクス4.0」×協働ロボット最前線 第2回:日本の物流クオリティと世界の物流標準
・「ロジスティクス4.0」×協働ロボット最前線 第3回:物流ロボットへの投資判断

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