
現場に入れる=自動化導入ではない
倉庫自動化(Logistics Automation)を導入したにもかかわらず、想定していた生産性目標が達成できない。設備は動いている。システムも稼働している。しかし現場はどこかちぐはぐで、生産性目標達成までの目途が見えず、このままではROIも合わない─。
こうしたケースを目の当たりにした時、皆さんはどう思われるでしょうか?原因は「ロボットの性能」や「システムの仕様」でしょうか?もちろんその可能性もあるでしょう。しかし実際には、問題の本質はそこではないケースも存在します。そして「そこではない」部分が原因となっているケースは、皆さまが想像する以上に多いかも知れません。
倉庫自動化に限らず、また自動化設備に限らず、全ての設備機器は「ツール」であり「魔法の箱」ではありません。つまり、導入さえすれば欲しい効果が即確実に出るものではなく、ユーザー側の使い方によっても設備機器のパフォーマンスは左右されてしまいます。もちろん私たちラピュタロボティクスのようなロボットメーカーや販売会社は、稼働開始時点で事前に合意したパフォーマンス目標値が発揮できるよう可能な限りのご提案を行います。しかし目標達成には、ユーザーとなる現場の皆さまのパフォーマンスも不可欠なピースとなるのが現実です。
最大の壁は、技術ではなく「主導権」です。
現場が長年積み重ねてきた出荷先の要望に対応するための運用や状況に応じた判断の蓄積。その延長線上にある既存オペレーションが、ある日突然「システムの指示に従う形」へと変わる。その時現場の人が感じるのは、設備の能力不足ではなく、未経験の運用や自動化導入後の自身の役割、想定通りに稼働しなかった場合の対応方法等が曖昧になることへの圧倒的な不安です。
導入効果を得るには「自動化を現場に根付かせることが不可欠」というポイントを前提に置いた時、自動化とは単に設備を導入することではなくなります。自動化を根付かせるということは「誰が現場を主導するのか」という前提を再設計すること、つまり「人の作業による運用ありきで、自動化設備をそれに合わせる」という考え方から「自動化を前提に現場運用を再設計する」という考え方にシフトすることであり、それには「人の役割を再定義する」等の発想の転換が必要です。
自動化の歴史:工場の自動化はどのようなステップを経たか

発想の転換は簡単にできることではない。
この記事を読まれるあなたはそう感じられたかと思います。一方で倉庫自動化は世界的に急ピッチで浸透しつつあり、少子高齢化の最先進国である日本国内の人手不足を考えると、規模の大小はあれど倉庫自動化は当たり前にやっておくべきものになるという見方が最も現実的ではないでしょうか。
ではその大きな発想の転換を行った例は過去に存在するでしょうか?
「歴史は繰り返す」という言葉にある通り、過去の歴史に学ぶのであれば、それは製造業におけるFA(Factory Automation/工場自動化)が例に挙げられます。工場もまた、かつては熟練工の技術と経験によって支えられていました。機械による自動化が登場した産業革命時には、ラッダイト運動のような「仕事が奪われる」という強い抵抗があったことはよく知られており、現代になってもロボットやAIに仕事が奪われるという懸念は残っています。
製造業において自動化が根付く転換点となったのが、トヨタ生産方式における「自働化(Jidoka)」という考え方です。これは単に機械を動かす(Automation)のではなく、「人の知恵を付けた自動化(Autonomous)」を指すものであり、トヨタ生産方式の根本を成す考え方となっています。創業者・豊田佐吉は「無停止杼換自動織機」 の発明によって、糸が切れたら自動織機が止まる=「機械が異常を判断し、人間を単純な監視から解放する」という考え方をも発明しました。
ここで重要なのは、主導権を機械に「奪われた」のではなく、機械に「異常判断」を任せたという点です。人間は単純な監視から解放され、例外処理や改善活動といった、より高度な役割へとシフトしていきました。自動化は、人を不要にするのではなく、役割を再定義するプロセスだったのです。
このような流れは、日本国内だけでなく世界的に見られるものです。ダボス会議で有名な世界経済フォーラム(WEF)もこの歴史に着目しており、「A short history of jobs and automation(仕事と自動化の短い歴史)」というタイトルの記事を公開しています(英語/AI翻訳推奨)。この歴史が示すのは「技術の導入初期には必ず強い不安と抵抗が生まれるが、人間はその都度より高度な管理や創造的な役割へとシフトすることで、最終的に技術を味方につけてきた」という事実です。
製造業が通った3つの心理ステップ

工場の現場が自動化を受け入れるまでには、以下の3つの段階があったと言えます。
- 「解放」の段階
- 「信頼」の段階
- 「誇り」の段階
最初の「解放」の段階は、自動化を現場にどのように受け止めてもらうべきかのヒントになり得ます。自動化とは、そもそも重労働や危険作業といった、いわゆる3K業務を機械に代替させることを目的として始まっています。世界で初めて工場にロボットが導入されたのは、1961年の米ニュージャージーにあるゼネラルモーターズ(GM)の工場で、ダイカストマシンと呼ばれる鋳造機からドアハンドルやギアシフトレバー等の部品を高温の状態で取り出し、冷却し、バリ取りを行って溶接する一連の作業工程でした。これは鋳造直後の部品の熱だけでなく、アルミや亜鉛等から発生する有毒ガスという危険も孕んでおり、安全面でも重要課題として挙げられていました。つまり、まずは現場が「楽になった」「安全になった」と実感できることが第一歩になるのです。
次に「信頼」の段階。工場自動化の過程では、人間の体調や感情による「ムラ」は品質に影響するという事実が、しばしば客観的なデータとして共有されてきました。自動化によって不具合率が下がり、品質が安定する。その結果を定量的に示し続けることで、機械は「敵」ではなく「信頼できる道具」へと変わっていきました。この段階で重要なことは、機械と人を単純に横に並べて比較することではなく、機械を人間が扱うべき道具として位置付け、人の立ち位置を機械という新たな技術の管理者と再定義して示したこと、そしてその工程における作業を要素分解・単純化することで、自動化設備を人間が制御・管理しやすくしたことです。
最後は「誇り」の段階です。作業者の役割を、単にラインを動かす人ではなく、システムを改善する主体へと変えていきます。改善提案を引き出し、データを基に提案する。機械と横並びで張り合って「仕事が奪われる」という意識から、機械を使いこなして更にハイレベルな使い方を考える、あるいは自動化で得られたデータと自身の現場感を突き合わせて現実的で効果的な改善案を提案する。そのプロセス自体が、新しい専門性と誇りを生み出しました。
この3つのプロセスは、現在の倉庫自動化にもそのまま当てはまります。
倉庫自動化では何が変わるのか
これを倉庫現場に置き換えると、どうでしょうか。
例えばピッキング作業者という役割が、「ピッキングアシストロボットのオペレーター」へと変わる。「自動倉庫の管理者」へと変わる。歩行距離と時間が削減され、重量物の手搬送が減る。身体的/精神的負荷が軽減されることで、まず「解放」が起こります。
次に必要なのはデータの透明化、つまりデータを取るだけではなく現場の方がいつでもデータにアクセスできる状態を作ることです。稼働率、誤ピック/誤出荷率、ピッキングのタクトタイム、生産性と所要人数・時間のバランス。これらを可視化し、「システムが基準を作り、人間はその精度を支える」という人間より機械が良いという比較論ではなく、人間が機械を制御・管理するという共通認識を築くことで、信頼が徐々に形成されていくはずです。また、そのためには自動化前のデータを収集しておくことも重要です。そのまま単純比較ができないケースもありますが、そもそも導入前後の変化を比較するには導入前のデータが必要です。
そして現場が前向きに自動化設備を受け入れ、それを使いこなす段階に入れば、目に見える導入効果が表れるでしょう。この段階では、現場の作業を熟知する現場感のある作業者(ロボットオペレーター)の方々が、自発的に改善提案を出してくれるよう促すことができれば理想的です。現場の人が機械を駆使して業務を行い、その機械のより良い活用方法を自身で発案し、更なる改善に繋がる。これが誇りを醸成するはずです。
もし作業が属人化し、誤出荷や出荷遅延などの原因と対処法が曖昧なままであれば、主導権は依然として人にあります。人間主導自体が悪いわけではありませんが、システム主導型の運用へ移行できていない状態とも言えます。
自動化のROIは、設備性能だけでは決まりません。自動化設備の稼働が安定し、作業が標準化され、自発的に改善活動が回っているかどうか。その「実運用」の成熟度こそが、成果を左右する要素であり、事前想定通りに自動化設備から導入効果が得られるかという「ROIの前提」を決定づける要素です。

Before / Afterが示す「主導権移譲」の効果
実際に、主導権を明確に再設計した現場では、次のような変化が見られます。
稼働率が60%台から80%後半へと向上する。
誤ピック率が半分以下に低減する。
残業時間が大幅に減少し、教育期間も短縮される。
これらは、単なる自動化導入の効果ではありません。
データを基準に運用を回し、例外処理を構造化し、現場が改善プロセスに参加した結果です。
感情を論理でねじ伏せたのではなく、 「納得」を積み重ねた結果だと言えるでしょう。
事例1:日本出版販売株式会社(自在型自動倉庫「ラピュタASRS」)
- 背景
- 3拠点を統合した新たなセンターを新設
- ピッキング方式も様々だったが新拠点構想時に運用設計を念入りに実施
- 人手不足や季節波動等の変化にも対応できる自動化設備選定と運用設計を実施
- Before / Afterでの差異
- 従来の手作業でのピッキングでは90行/時間
- 現在は300行/時間
- 必要人員数も大幅削減
- その他、DASやソーター等も導入し季節波動にも柔軟に対応

【動画あり】導入事例:日本出版販売様
本導入事例記事では、日本出版販売様の自在型自動倉庫「ラピュタASRS」の導入事例をご紹介します。稼働開始から1年を経た生の声をお届けする録画ウェビナーも是非ご覧ください。
事例2:ネスレ日本株式会社×ASKUL LOGIST株式会社(ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」)
- 背景
- 荷主であるネスレ日本では物流業務をASKUL LOGISTに集約し、現場改善も一元化
- ASKUL LOGISTは別拠点でラピュタPA-AMRの導入実績があり活用方法を熟知
- 円滑な導入プロジェクトから稼働開始、想定効果を得るまでが非常に短期間
- Before / Afterでの差異
- ピッキング生産性は約2倍に
- インフルエンザ大流行期においても出荷遅延ゼロ件など安定稼働
- 現場作業者からも非常に高評価となり、現場に根付いている

【動画あり】導入事例:ネスレ日本様×ASKUL LOGIST様
本導入事例記事では、ネスレ日本の物流業務を一手に担うASKUL LOGISTでの「ラピュタPA-AMR」導入事例をご紹介します。前後編でお楽しみください。
自動化を根付かせるということ
自動化を根付かせるとは、機械を増やすことではありません。単に人間から主導権を奪うことでもありません。それは、作業の主導権を“改善の主導権”へと移すことです。
現場スタッフに「このシステムをより良くするために、あなたの知見が必要だ」と伝えられているか。データが共有され、改善会議が機能しているか。現場にどれだけ自動化が根付いているか、または現状の現場がどれだけ自動化を受け入れる準備ができているか、その度合いが表れるのは、まさにそういったポイントです。
あなたの現場の現在地は
・オーダー処理状況や生産性はリアルタイムで可視化されていますか?
・誤出荷や誤ピック発生理由は分類され、共有されていますか?
・現場はKPIを自分事化し、改善に関与していますか?
もし曖昧さが残るなら、それは悪いというよりも、貴社の現場にはまだまだ伸びしろがあるということです。
現場の自動化受け入れ準備度がどの段階にあるのかを客観的に確認したい方は、以下ボタンより倉庫自動化を成功させるためのセルフチェックガイドをダウンロードいただき、ご活用ください。特に複数拠点を同じ評価軸で比較されたい場合は尚、効果的です。
まず現在地を知ることが、次の一歩を決める材料になります。
