自在型を実現したアンカーレス構造
自在型自動倉庫「ラピュタASRS」は、独自のブロック構造に由来する形状の自由度の他にも、用途、規模、移設といった多角的な自在性が大きな特徴となっています。この「自在型」を実現する要素の1つが、アンカー打ちを行わないアンカーレス構造です。
ではなぜ、ラピュタASRSはアンカーレス構造を採用したのでしょうか?地震発生時のリスクや構造物としての強度に問題はないのでしょうか?本記事では、ラピュタASRSの自在型を実現した開発のバックストーリーやコンセプトに遡り、アンカーレス構造を採用した理由とその利点をご紹介いたします。
既存現場にも設置できる自動倉庫
ラピュタASRSの開発初期、「レゴブロックのようにモジュールを組み合わせて自由な形状に組み上げられる」という点と併せて掲げられたのが、「既存の現場にも導入しやすい」という点でした。自動倉庫は1950年代から存在していますが、原則的に倉庫新設時に設置されるものです。しかし物流網が十分に発達した日本国内において、倉庫はインフラの1つとも言えるものであり、当然今後建設される新規倉庫よりも既存倉庫の方が圧倒的に数が多いはずです。Making Robots More Accessible(ロボットをもっと身近に)をスローガンに掲げるラピュタロボティクスは、この既存倉庫においても自動化が実現できるようコンセプトを定めました。
モジュール式のブロック構造で自由な形状に組み上げられれば、既存現場であってもその内部構造にほぼ完璧にフィットし、「自動倉庫内の高密度保管」ではなく「倉庫空間全体の中での高密度保管」が実現できます。そして現場ごとに異なる様々な環境を考慮すれば、「どこにでも持っていける」、「どこにでも設置できる」という、ある種のモビリティ性も必要になってきます。構造物を金属ではなくガラス繊維強化FRPの樹脂製にした理由も、軽量化と強度を両立させるというモビリティ性によるものです。また、SDGsに代表されるような近年の環境意識の高まりを背景に、樹脂材料がリサイクルできることといった要件や、重機を使わずに設置できること、床の耐荷重に配慮すること等の要件も付随して追加されていきました。そうした開発プロセスの中で、どうしても取り入れるべきであると位置づけられたのが、免振構造の考え方です。
日本古来の伝統技術を開発コンセプトに
第三者機関で実施されたラピュタASRS耐震試験。躯体、商品共に損傷は発生しなかった。
1995年に発生した阪神・淡路大震災、そしてタワーマンションの登場以降、旧来の主流であった「固定することで揺れに耐える」という考え方の耐震構造に対し、「地震のエネルギーから免れる」という考え方の免震構造、あるいは「地震のエネルギーを減衰させる」という考え方の制震構造が増加していると言われています。この理由は、耐震構造が(限界はあるものの)しっかりと固定して揺れに耐え、構造物躯体の倒壊・損傷を防ぐという点に対し、免振・制震では地震エネルギーを逃がす、あるいは減衰させることで「躯体だけでなく内部の人やものも守る」というメリットがあるためで、建物であれば人命保護の観点からの評価によるものと言えます。
同様に、自動倉庫においても自動倉庫それ自体が地震発生時に壊れないことも重要ですが、お客様の資産である自動倉庫内の商品を守ることも同じように、またはそれ以上に重要です。免震のWikipediaページでも言及されている通り、地盤と躯体を構造的に絶縁するという免震構造の原始的な形は、敷石の上に直接柱材を立てるという日本古来の寺社仏閣の建築様式で既に見られます。ラピュタASRSは、日本発のスタートアップであるという点から、釘を使わずに木組みで建物を組み上げていくという宮大工の伝統技法も意識して、ねじやボルトを使用せずに樹脂部材を手作業で組み上げていくだけで設置が行えるという構造も実現しました。
伝統的な神社建築の基礎部分イメージ
また、地震発生時の懸念レベルを評価するため、ラピュタASRSは第三者機関での耐震試験も受けており、阪神・淡路大震災、そして東日本大震災の地震をそれぞれ再現した揺れを加えても、躯体やビンと呼ばれる専用コンテナ内の商品に損傷が発生していないことを確認しています。
一方で、現在でも一部の企業においては社内規定により、一定規模以上のラックや自動倉庫を設置する際にはアンカー打ちを行うことが定められているケースがあります。そのため「アンカー打ちを行って設置することはできるのか?」という質問をいただくことがありますが、ご回答としてはアンカー打ちを行っての設置は「ご対応できかねます」という形になってしまいます。理由としては、まずアンカー打ちによってベース部分を固定してしまうことで、免振/制震機能が損なわれてしまうこと、そして地震のエネルギーが躯体の強度を上回った際にアンカー部分が破壊の基準点になってしまうためです。上記理由により、私たちとしても残念ではありますがアンカー打ちが必須となる現場では、ご提案を差し控えさせていただいているのが現状です。
アンカー打ちが不要ということは
アンカー打ちを行わないことでお客様が得られるメリットには、様々なものがあります。導入時においては、まず床下に配管が走っている場合でも問題なく設置が行え、建屋の2階、3階など上層階に設置する場合や退去時に現状復旧が求められる賃貸物件でも気軽に導入いただくことが可能です。冒頭で触れた通り、ラピュタASRSは「既存の現場にも簡単に導入できる」「どこにでも設置できる」をコンセプトに開発された自在型自動倉庫です。この利点は実際に多くのお客様からお引き合いをいただく根拠になっています。
導入いただき、稼働を開始した後の利点では、レイアウトの変更が柔軟に行えるという点が挙げられます。実際にはソフトウェア側でロボットの走行範囲の変更など、付随する作業が発生するためお客様側で気軽にレイアウトを組み替えながら運用できる、というわけではありませんが、例えば3PL様であれば新たに別の荷主様の商品を預かることになった際の現場オペレーションに合わせたレイアウト変更も、旧来の固定設備となっている自動倉庫とは異なり、ラピュタASRSなら対応可能です。
そして最も極端な例は「他の拠点に移設ができる」という点になるでしょう。アンカーレスというだけでなく、樹脂部材を軽作業で組み上げる据え置き型の自動倉庫であるため、解体して他拠点に運搬し、再構築することで、これまでの自動倉庫では考えられなかった「移設」にも対応可能です。現実には安全面への配慮などから上に記載した文章からイメージいただくよりも複雑なプロセスが必要となり、移設にも一定のコストと期間を要しますが、固定設備たる旧来の自動倉庫(撤去費用だけでも巨額のコストが必要)ではこのような移設には対応することができません。 こうした「固定設備ではなく据え置き型であること」は、設備投資を行う上で投資対効果とは別軸の指標である「中長期的なリスク」の低減につながります。パンデミックや半導体不足、テクノロジーの進歩に世界情勢の変化、為替の乱高下など、現在はほんの数年先でさえ世の中がどうなっているのかを見通すのが非常に困難な時代です。大きな変化が非常に短期間で起こってしまう現在のような時代には、盤石で「不動不変」なものよりも、「変化に対応できる柔軟性」が求められます。自在型自動倉庫「ラピュタASRS」は、アンカーレス構造による免震構造においても、設備投資におけるリスクヘッジという点においても、その柔軟性を実現できるソリューションです。
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ラピュタロボティクスでは、自動倉庫または倉庫自動化ソリューションの導入にあたって、無料個別相談を承っております。数多くの方式が存在する自動倉庫の客観的な特徴や現場ごとの向き不向きによる選定支援など、自動倉庫導入や倉庫自動化ソリューション選定の際にはお気軽にご相談ください。