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クラウドロボティクスに対するラピュタロボティクスのビジョンと展望

日付: 19 Apr 2021
カテゴリー: ブログ

[この記事はQiitaより再掲となります。]

このブログ記事は、2019年6月23日にドイツのメッセフライブルクで開催されたRobotics:Science and Systems(RSS)2019ワークショップにて発表したクラウドロボティクスの将来に関するラピュタロボティクスのビジョンと展望についての詳細になります。

クラウドロボティクスの概要

クラウドロボティクスという用語は、2010年当時Googleの従業員だったJames Kuffner氏によって作られました[1]。この新しい概念はロボット工学とクラウドコンピューティングの統合によるロボットのための “拡張、共有された頭脳” について言及しました。ロボットが大量の計算処理をデータセンターにあるサーバへ委譲することで “頭脳を拡張” し、実世界の情報(環境やロボットの能力・行動の情報)収集および整理したデータベースを “共有”し、構築できるとしています。

一方、ヨーロッパでは2010年〜2014年の間、EUが資金提供したRoboEarth [2] が “ロボットのためのインターネット” を構築しようとしていました。これはロボット専用インターネットであり、クラウドにあるデータベースと計算処理能力によってロボットの拡張(データセンター内のサーバーによる)、共有された頭脳を実現します。

ラピュタロボティクスの設立メンバーは、元々RoboEarthプロジェクトのETH Zurichチームに所属していました。私たちのパートナーには6つの大学とPhilipsがいました。私たちの共通データベースとクラウドによる計算処理の結果は[3]や[4]、そして以下の動画をご覧ください。

我々の研究を通じて、幾つかのコラボレーションが生まれました。James Kuffner氏はRoboEarthのIndustrial Advisory CommitteeにBrian Gerky氏(Open Source Robotics Foundation(OSRF)のCEO[5])とともに参加しました[5]。

クラウドロボティクスの研究は90年代まで遡ることができます。外部頭脳ロボットに関する研究 [9] 、インターネットを用いたテレロボティクスに関する研究も行われています[8]。

ラピュタロボティクスのビジョン

課題

10年近くクラウドロボティクスを経験し、特に会社としての4年の経験より、クラウドロボティクスをより広く再定義すべきだと考えています。クラウドロボティクスを再定義する必要性は、次の二つの主要な理由が挙げられます。

技術より人とプロセスを優先する。技術を選択する前に、まず利用者に共感し、彼らの目標やプロセス、制約を理解しなければなりません。また、よく知られた技術への過剰な依存を伴う認知バイアスに注意しなければなりません。
個人の開発者または一つの会社よりもコミュニティを優先する。人々の繋がりには強さがあります。

クラウドロボティクス分野でよく見落とされるのですが、クラウドベースのロボットシステムの価値はコンピューティングだけではありません。ロボットの頭脳は、動作するためにセンサーやアクチュエーターといったハードウェアを必要とします。さらにロボティクスのユースケースの多くにおいて、複数台のロボットを用いたシナリオが含まれます。つまり複数セットのコンピューティングパワー、センサー、およびアクチュエーターが連携して動作するのです。そしてそれら上位に、従うべき人やプロセスがあります

クラウドとロボットを接続する利点については異論はありません。私たちは頭脳を拡張、そして共有する利点を信じています。

最終的な目標は、クラウドロボティクスの範囲をクラウドだけでなくロボットのハードウェアや周辺環境を含めたものに拡張することです。それにより、クラウドを含めたロボットをより身近な存在にしたいと考えてます。

ロボットソリューションに関わる開発者、利用するエンドユーザから聞かれるロボティクスの課題は次の通りです。

  1. 技術的な複雑さ:ロボティクスソリューションは非常に高レベルな技術が求められ、専門家でない人が扱うのが困難です。
  2. 大規模な設備投資:ロボティクスソリューションを実現するにはかなりの資本が必要です。
  3. 柔軟性のないシステム構成: ロボティクスソリューションは特定の目的に対して構築され、環境やプロセスの変化に対して柔軟性はありません。
  4. アクセス制限:ほとんどのシステムは現地からしかアクセスできず、そのことがシステムの運用や拡張に対して課題になっています。
  5. 独自のインタフェース:ソフトウェアやハードウェア間のAPIは標準化されておらず、イノベーションを阻害しています。

発見

旧来のサーバ操作と最新のクラウドコンピューティングに関する共通点を見いだした時、アイディアがひらめきました。詳しく紹介します。

クラウドコンピューティングが登場する以前はサーバとアプリケーションのインストール、構成、テスト、実行、保守などを行うのに専門チームが必要でした。大企業でさえ、その問題に頭を悩ませており、中小企業にとってはチャンスは皆無でした。

そして、クラウドコンピューティングが登場しました。

クラウドコンピューティングによって誰もが無限とも言えるコンピューティングリソースにアクセスできるようになりました。その課金は時間単位で行われ、スタートアップ企業でさえ大企業と同じ市場で戦えるようになりました。米国標準技術局(NIST)[6]では、クラウドは以下の特徴を持つコンピューティングリソース(サーバ、ストレージ、ソフトウェアなど)をユーザに対して提供すると定義しています。

  • On-demand self-service:コンピューティングリソースが必要なときはいつでも、専門家を必要とせず入手できる。
  • Shared resource:サーバを所有するのではなく、リソースを共有する。
  • Rapid elasticity:需要に応じてスケールアップ(またはダウン)できる。
  • Ubiquitous access:どこからでもネットワーク/インターネットを介してリソースへアクセスできる。
  • Measured service:リソース使用量は、利用した機能(ストレージ利用量、処理時間、帯域幅、アクティブなユーザアカウントなど)によって透過的に課金され(別名、従量課金)、利用量が予測可能である [7]。

例えば上記の特徴をロボット工学に適用したら、世界がどのように変わるのかを考えてみましょう。

On-demand self-service
エンドユーザは必要に応じてロボットを利用または停止できます。ハードウェアとソフトウェアの多様性を考えると、準備段階においては専門家の助けを必要とせずに、ユーザがハードウェアおよびソフトウェアの一覧から必要な構成を選べると良いでしょう。これによりイノベーションや価格競争力があるオープンな市場が生まれます。

Shared resource
エンドユーザはロボットを所有する必要がありません。その代わりに大資本を持つ企業がハードウェアを所有して提供します。特定のハードウェアの全ユニットを共通した方法で管理できれば、ハードウェアに対する規模の経済性が高まり、メンテナンスコストが削減されます。

Rapid elasticity
ロボットの“頭脳”、つまりコンピューティング部分は高い柔軟性をもちます。本体、つまりハードウェアは瞬時に用意できませんので、ロボットが出荷および稼働可能になるまで、しばらく待つ必要があります。

Ubiquitous access
エンドユーザは、ブラウザのようなシンクライアントを使って直感的な方法でロボットを操作し、どこからでも自分のロボット(群)にアクセスできるでしょう。例えばこのビデオではエンドユーザがWebブラウザを使用して、ドローンをリモートで起動および制御できています。

Measured service
リソース使用量は測定できるものであり、エンドユーザやソリューションプロバイダ、ハードウェア開発者、ソフトウェア開発者などを含むすべてのユーザに対してオープンになります。例えば、ロボットが完了した仕事の量、稼働していた時間、APIが呼び出された回数、ログ/測定のための帯域幅/ストレージ使用量など測定します。これらの測定情報は課金を最適化、さらにコストを最適化する予測に用いられます。

良さそうに見えますが、問題点もありそうです。ロボット工学により関連性のある特性を見いだし、修正しなければなりません。

まず、On-demand は除外します。ハードウェアと安全性を考えると、少なくとも今後数年間は、エンドユーザが人手を介さずにロボットソリューションを準備するのは困難でしょう。

第二にRapid elasticityRapidを削除 ハードウェアをお客様の現場に準備する手間を考えると、Rapidに需要に応じてシステムをスケールアップ(ダウン)することを短中期的に実現することは難しく、また、お客様のフィードバックによると、優先度の高い需要ではないと考えられます。

最後に、Measured serviceopen interfacesに置き換わります。Measured serviceと言うと、クラウド外部で多くの監視が必要とします。透明性とコミュニティを主体とした、open interfacesを採用しましょう。

つまり、クラウドロボティクスの将来とは以下のように考えられます。

クラウドロボティクスは、オープンなインターフェースを備え、
伸縮性を持つ共有のロボティックス資源を専門家の力を借りずにいつでも、
どこからでもアクセスできるようにし、提供するモデルである。

私たちが構築したソリューション例を使って詳細に説明します。これは、ピッキング効率を高めるために、人と協力するロボットシステムです。ピッキングは倉庫で最も人手が必要なプロセスです。

上記のピックアップ支援システムにおけるクラウドロボティクスの特徴は次の通りです。

Self-service:エンドユーザは専門家の助けを必要とせずにロボティクスソリューションの設定変更やオペレーションを行えます。
Shared resource :エンドユーザはロボットを所有せず、毎月レンタルしています。
Elasticity: 最小のコストでビジネスプロセスに適合させ、拡大または縮小を容易に可能にします。
Ubiquitous access: ロボティクスシステムおよびサブコンポーネントの状態は、権限を持った人であればどこからでも監視および制御できます。
Open interfaces
定義されたインターフェイスによって、WMS / ERPなどのサードパーティとの統合が容易になります。
すべてのステークホルダーにとってプロセスがオープンです。たとえばハードウェア保守企業は運用データ、ハードウェアおよびその使用法にフルアクセスでき、タイムリーな保守によって高い稼働時間を保証できます。

素晴らしい、でも…

もちろん、課題はあります。特徴を強調した際に気付いていたかも知れません。この新しい考え方で取り組む上での上位3つの課題を以下に紹介します。

  • ロボットは多種多様である
  • ロボットは物理的に分布している
  • ロボットは自律的である必要がある

最初の2つの課題(多種多様ささ、物理的な分布)は、クラウドコンピューティングで使用される「ペットと家畜」という考え方から理解を深められます。ペットモデルでは、ペット(リソース)は唯一無二であり、愛情を込めて育てられ、病気になったときには手厚く介護されるでしょう。あなたは成長を促進するために手を尽くし、そしてペットに問題、または病気になってもすぐに気付きます。一方、家畜サービスモデルでは、家畜は「ほぼ同一」であり、病気になった場合は別のリソースと交換します。家畜の数を増減させることで規模を拡大、または縮小します[10]。ペットと家畜の歴史および適切な利用について [11] を参照してください。 「ペットと家畜」はクラウドコンピューティングにおける不均一性とスケールの文脈で語られますが、物理的な側面もあります。ペットカフェを除けば、通常ペットは家の中にいて、そこに住む人々との間に特別な絆が生まれます。一方、家畜は農場内で飼育されています。つまり、データセンター内のサーバとして存在するのです。

現在の課題は#robots-are-petsです。ペットのように扱わなければなりません。それは、ロボットが大事だからというわけではなく、以下のような理由によります。

多様多様 – 特定のタスクをロボットで実行し、最適化を達成するためには特別なメカニズム(ロボット)が必要です。この課題を解決するために汎用ロボットを構築するという考えがありますが、すぐに実現できるものではありません。
物理的分布 – ロボット特定の場所で物理的作業を行うことが期待されます。これはインターネット接続さえあれば任意の場所に配置できるサーバとは異なります。

次に3番目の課題である自律性を考えます。自律性は、周囲の状況をどれだけよく理解し、最適な結果を出すために、どれだけ速く反応、うまく処理を行うかという尺度であると見なせます。もちろん人の介入は最小限とします。この定義を踏まえた上で、課題の全体像を把握するために次の3種類の領域と比較してみましょう。

クラウド – システムへの入力/検知は、不確実性がなく、適切に設計されています(APIが明確に定義されています)
IoT – センサーの帯域幅は小さく、多くの場合、厳しいリアルタイム要件はありません
スマートフォン – ロボットのセンサーと比較すると、スマートフォンのセンサーはまだ精度が低く、スマートフォンは人が使用する適切なアプリを選択します。
上記の比較は自動化のみについてです。それぞれ領域ごとに特有の課題があります。
さぁ、どうやってペット(ロボット)を飼えば良いでしょうか。

光明が見えてきました

要点は次のとおりです。ペットを飼うには、家畜の放牧に比べて少なくとも一桁以上の多様なスキル、ロールおよびリソースセットが必要です。ラピュタロボティクスでは技術スタック(プラットフォームとも呼びます)の構築においてオープンな手法を取っています。

ペットの飼育の可能な範囲での自動化を支援します
ペットの飼い主、ペットの飼育者、ペットの医師などの効率的なやり取りを可能にします。

この詳細については、今後のフォローアップ記事をご覧ください。

クラウドロボティクスに興味を持ちましたか?我々はハイアリングも行っています。ロボットの放牧に興味がありますか?rapyuta.ioをぜひチェックしてください。

参考文献

[1] Kuffner, James (2010). “Cloud-Ehttps://www.scribd.com/doc/47486324/Cloud-Enabled-Robotsnabled Robots”. IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robotics.
[2] http://roboearth.ethz.ch
[3] M. Tenorth, A. C. Perzylo, R. Lafrenz, and M. Beetz, “Representation and Exchange of Knowledge About Actions, Objects, and Environments in the RoboEarth Framework,” in IEEE Transactions on Automation Science and Engineering, vol. 10, no. 3, pp. 643-651, July 2013.
[4] G. Mohanarajah, D. Hunziker, R. D’Andrea and M. Waibel, “Rapyuta: A Cloud Robotics Platform,” in IEEE Transactions on Automation Science and Engineering, vol. 12, no. 2, pp. 481-493, April 2015.
[5] http://roboearth.ethz.ch/iac/index.html
[6] The NIST Definition of Cloud
Computing https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/Legacy/SP/nistspecialpublication800-145.pdf
[7] https://www.techopedia.com/definition/14469/measured-service-cloud-computing
[8] K. Goldberg and R. Siegwart, Eds., Beyond webcams: an introduction to online
robots. Cambridge, MA, USA: MIT Press, 2002.
[9] M.Inaba, S.Kagami, F.Kanehiro, Y.Hoshino, and H.Inoue, “A Platform for Robotics Research Based on the Remote-brained Robot Approach.” I. J. Robotic Res., vol. 19, no. 10, pp. 933–954, 2000.
[10] https://medium.com/@Joachim8675309/devops-concepts-pets-vs-cattle-2380b5aab313
[11] http://cloudscaling.com/blog/cloud-computing/the-history-of-pets-vs-cattle/

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ブログ
/ 04 Apr 2024
2024年問題以降の物流危機
第2回:物流危機をチャンスに変える「自動化」投資と基準
働き方改革法によって2024年4月から施行される「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」。これによって生まれるさまざまな課題が懸念されています。この物流・運送業界の「2024年問題」を乗り越えるためのヒントを、欧州を代表する経営戦略コンサルティングファームである株式会社ローランド・ベルガー の小野塚 征志さんに伺いました。「物流クライシスによっておこるこれからの日本」と「物流自動化への投資基準」という観点でお伺いしたインタビューを、3回にわたってご紹介していきます。前回は、2024年問題が物流業界に引き起こす「深刻な人材不足」が日本の経済危機を招きかねないというお話でした。2回目となる今回は、これを踏まえて、2024年問題を乗り越えるための「物流の自動化」に投資するタイミングや、その判断基準について伺いました。 ■小野塚さんプロフィール profile小野塚 征志株式会社ローランド・ベルガー パートナー 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。内閣府「SIP スマート物流サービス 評価委員会」委員長、経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員、経済産業省「フィジカルインターネット実現会議」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員、経済同友会「先進技術による経営革新委員会 物流・生産分科会」ワーキンググループ委員などを歴任。近著に、『ロジスティクス4.0 −物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)、『サプライウェブ −次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『DXビジネスモデル −80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)など。 自動化への投資が生み出す「費用対効果+α」の価値 Q.小野塚さんの著書『ロジスティクス4.0:物流の創造的革新 』(日本経済新聞出版)でも予測されているように、人手不足に苦しむ物流業界は、ロジスティクス4.0(=装置産業化)へと進んでいくと思いますが、その前段階にある「ロジスティクス3.0」、すなわち「物流のシステム化」を進めることにも悩みを抱えている企業はまだ多いと考えられます。具体的に物流のシステム化や、自動機器を導入していく現場はどのように思考し、行動を起こせば良いのでしょうか? まずはコンサルタントとして見てきたご経験から、システム化・自動化の「投資判断基準」を教えてください。 小野塚 たとえば自動化への投資を行った結果、100人でやっていた仕事が50人になりました、とか、紙からデジタルで処理されるようになったことで事務作業者が30人から10人に減りました、となったときには、基本的にはまず人件費が削減されていきます。仮に、月当たりで20人分のコストが年間で1億円下がったとします。投資総額が10億円だとして、約10年で回収できそうだ…という考え方で意思決定をしていきます。5年がいいのか10年なのかは各社さまざまですが、ひとつの大前提として、投資に対して「一定期間で回収が見込めるものに関しては投資をすべきである」というのが基本のキとなる考え方です。物流センターの自動化については、これに加えてさらにふたつほど考えておくべきポイントがあります。 まずひとつは、自動化によって労働環境が改善されるような現場では「自動化の副次的効果」が発生するということです。重いものを運ぶつらい仕事はロボットで、人間は人間にしかできないクリエイティブな仕事ができる…となれば、無論、働く人のモチベーションも変わっていきます。その結果「この会社は労働環境が良い」というイメージが生まれ、採用率と定着率の向上につながっていきます。定着率が下がると新規採用を常に行わねばならないから、コストの面で見れば、人材会社への報酬や広告費などの「採用コスト」がかかっていくことになります。もし自動化して定着率が上がったことで採用コストが浮けば、ほかの有用な投資にまわすことができます。もうひとつは、「人件費は上がり続ける可能性がある」ということです。先ほどの例でいう1億円×10年で投資を回収するというのは、あくまで「今の人件費」で試算したものです。ここで考えなければいけないのは、今後は「確実に人手不足になる」ということです。こうなると指数関数的に人件費が上がっていって、集めようと思っても人が集まらなくなっている可能性もあります。将来的には年間1億円は2億円になっているかもしれません。現実的には、人件費がどこまで上がるかは誰にもわからないですし、定着率も完全に計算できるわけではありません。それでも極端な話で、設備投資分と人件費がアップすることを見込んだ回収分が、投資に対してプラマイゼロだとしても、「働く環境が大きく変わる」ことで得られる「副次的効果」の果実はほぼ確実に得られるわけで、回収想定期間を超えた分はプラスに転じる可能性が高いわけです。先ほどお話ししたように、労働環境が最新設備となり定着率が上がることで見込まれるのは、採用コストと雇用コストの削減、PR効果といったものです。昔ながらの人海戦術で働く環境と、最新のロボットとともに働く労働環境を比較すれば、働き手がどちらを選択したくなるかは明らかですよね。 このように、長い目で見ても実際面の価値がほぼ確実に出てくるので、設備投資費用と数年分の人件費がトントンの試算であっても、投資する方向で意思決定しましょうというのが、私の意見です。 大手企業と中小企業で異なる「自動化機器」と「投資基準」 Q.大手企業と中小企業とで投資判断基準が異なるかと思います。これらの違いを教えてください。 小野塚 大型倉庫を複数持つ物流企業では、扱う荷物の量が多いため、GTP(商品棚搬送型ロボット)や自動倉庫など、大型の設備投資をしてもより早く効果を出しやすくなり、生産性を担保しやすくなります。さらに仮に3台の大型設備を導入した場合、トラブルで1台が動かなくなったとしても、残り2台でバックアップができるので、センターを止めずに稼働できます。 このように大手企業の物流センターだと、投資できる資金額が大きいため生産性を高めやすく、何かあったときに対応しやすいという特徴があるので、大型設備の投資でも意思決定が比較的スムーズだと思います。 一方、中小の物流倉庫では大型の設備を複数台導入するのが費用対効果の面から難しいケースが多く、また1台のメイン設備がストップすればバックアップがないため、センター全体が停滞してしまうリスクが出てきます。そのため、中小の物流倉庫では、トラブル時にバックアップが効きやすく、投資金額が小さくても生産性をある程度高められる、AMRのような小回りの利く小型ロボットをトライアルで複数台入れてから、判断されるのが良いと思います。 自動化で起きる地盤変化!物流業の未来とは Q.3PLと荷主側での投資判断基準の違いを教えてください。 小野塚 日本では、3PLと荷主との契約期間は3年程度であることが多いです。また3年契約でも再契約になるケースがほとんどなので、長い目で見た設備投資も本来ならばできるはずです。しかし、ロボットの設備投資に対しての回収期間が「10年」となってしまうと、3PLとしてはどうしても二の足を踏んで導入しにくくなる実情があります。そのため、短い投資回収期間で、一定の効果を出しやすいAMRのようなロボットを、セレクティブに導入していくのがおすすめです。またサブスクのような料金形態で利用できるサービスだと、よりコストを抑えた投資・運用も可能になりますし、現在そのようなロボットビジネスが増加していて活用できます。 投資への意思決定という点で言えば、荷主(商品の所有者=3PLへの発注者)の方が意思決定をしやすいということになります。物流センターの設備は荷主の所有物であることが多く、投資の是非を主体的に判断できます。そのため、長い目で見ても荷主側は早めに投資をしてくださいということが言えると思います。しかも荷主としては、収益性を維持しようとすると、人件費の上昇分を売値に転嫁する必要があります。そのため設備投資をいち早く実行し、省人化できれば、その分だけコストの上昇を抑えられ、売値を維持でき、コスト競争力を相対的に高めることができます。 Q.これからの物流企業がどのようになっていくか、小野塚さんの未来予測を教えてください。 小野塚 これまでの倉庫業は、とにかく人が集められればビジネスになりました。現場で指示だしできるベテランスタッフさえ確保できれば、業務を遂行できたわけです。そして属人化したその仕事には再現性がないため、中小企業でも競争力を発揮できました。このような人海戦術でまわすやり方だったからこそ、日本には6千社を超える倉庫会社があり、運送会社に至っては6万社超もあるわけです。 一方で、物流を自動化するためには相応の費用を要しますが、大手企業は資本力があるだけではなく、スケールメリットを追求できるため、投資を意思決定しやすいです。一度自動化したオペレーションを確立してしまえばクローンのように横展開できます。結果として、現場の属人的スキルに依存した地場の中小企業は次第に競争力を失っていきます。 運送会社についても同じことが言えます。自動運転トラックも設備投資になるので、先行投資をしていく大手企業が優位です。本格的に実用化すれば、中小の運送会社の多くは、気が付けば自動運転トラックに仕事を奪われ、競争力を失っていくことが予想されます。 次回、最終回となる3回目では、物流の自動化を広めるカギを握っている不動産デベロッパーやマテハンメーカーの動向、そしてWMSなどのシステム連携についてお聞きします。 【この連載の記事】・2024年問題以降の物流危機 第1回:2024年問題以降に待ち受ける具体的な物流課題とは?・ 2024年問題以降の物流危機 第3回:物流「自動化」のカギを握る各業界の未来…
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プレスリリース
/ 04 Apr 2024
ラピュタロボティクス、三菱ロジスネクストと自動フォークリフト「ラピュタAFL」の販売協業を開始
ラピュタロボティクス株式会社(東京都江東区、代表取締役 CEO:モーハナラージャー・ガジャン)は三菱ロジスネクスト株式会社(京都府長岡京市、代表取締役社長:間野 裕一)と自動フォークリフト「ラピュタAFL」の販売協業を開始いたしました。
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プレスリリース
/ 03 Apr 2024
ラピュタロボティクス、株式会社Rise UPの物流センターへ「ラピュタPA-AMR」15台を納入 
ラピュタロボティクス株式会社(東京都江東区、代表取締役 CEO:モーハナラージャー・ガジャン)は、株式会社Rise UP(本社:大阪市西区 代表取締役社長:田中慎也)の物流センター(ロジスティクス千葉第1センター)に、協働型ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」を納入いたしましたのでお知らせいたします。
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